フッ素塗布
「8020※をめざして」Q&A
- Q:
- フッ素は毒ではないのですか?
- A:
- 安心してください。フッ素は体を構成する物質の一つですから、体にとっても必要なものです。また、フッ素は自然界にも存在し、魚やワカメ、野菜(特に根菜類)、お茶などの食品にも含まれています。
フッ素によって中毒となる量は、NaF(フッ化ナトリウム)で体重1kgあたり11mg、致死量は体重1kgあたり71~143mgです。これは歯科医院で使用するフッ素量、また家庭で使用する歯磨剤に含まれるフッ素量とは比較にならないほど大きな数字です。
ちなみに、今 最もおすすめできる“チェックアップ”のフッ素量は950ppmF(mg/g)です。
- Q:
- どうしてフッ化物がむし歯予防に効果があるのですか?
- A:
- 歯ブラシや一般の歯磨剤では、プラーク除去によるムシ歯予防効果は期待できますが、100%プラークを取り除くことはできません。どうしても歯ブラシの届かない部分のプラークは取り残されてしまうのです。その点、フッ化物配合歯磨剤を使っていれば、取り残されたプラークの中にいるムシ歯菌の働きを弱めて、酸が作られるのを抑えます。さらにフッ素が再石炭化を促進し、ムシ歯の発生を防ぐとともに、ごく初期のムシ歯なら自然に再修復してくれるのです。
- Q:
- なぜムシ歯予防にフッ尭が有効ということがわかったの?
- A:
- 100年ほど前、アメリカのコロラド州のある地域で、住民の多くが褐色の歯をしていました。そこで、彼らの口の中を調べてみると、他の地域とは比較にならないほどムシ歯が少なかったのです。また、それと同時に飲料水に含まれるフッ化物の濃度も他の地域より格段に高いこともわかりました。その水を妊婦が飲むと、胎盤を通じて胎児にフッ化物が提供されムシ歯になりにくい子供が生まれていたのです。また、その水を日常的に使っている人たちの歯も、フッ化物によってムシ歯予防の効果があらわれていたのです。そこで欧米では水道水(上水道)にフッ化物を入れて、子供のムシ歯を予防している地域が多くあるのです。
- Q:
- なぜ日本では水道水のフッ素化が行われないのですか?
- A:
- 厚生省では
・水そのものに何かを添加することは避けたい
・国内に飲用できる水の量がきわめて少ない
・適当なフッ素濃度を維持することが難しい
- Q:
- なぜ日本では水道水のフッ素化が行われないのですか?
- A:
- 厚生省では
・水そのものに何かを添加することは避けたい
・国内に飲用できる水の量がきわめて少ない
・適当なフッ素濃度を維持することが難しい
との理由から日本での水道水のフッ素化が認められていません。そこで日本では歯科医院でのフッ化物応用が行われているのです。水道水のフッ素化ほど効果はありませんが、フッ化物を歯面に塗布することによってムシ歯予防効果が得られます。 余談ですが、日本国内のアメリカ軍基地では、同じ水道水に独自にフッ化物を添加したものを、各家庭に供給してムシ歯予防に効果をあげているそうです。
- Q:
- フッ化物を塗ると歯が黒くなると聞いたことがあるのですが…。
- A:
- 安心してください。黒くなるのはフッ化ジアミン銀(サホライド(R))を塗った場合のみです。
予防に使うフッ化物はフッ化ナトリウム、フッ化スズですので、歯の変色はありません。
- Q:
- フッ化物(配合歯磨剤)を使っていれば、ブラッシングは適当でいいの?
- A:
- いいえ。ブラッシングは次の2つの意味でとても重要です。
1)ムシ歯予防
ムシ歯はいろいろな原因が重なり合って発症する多因子性疾患です。糖分摂取のコントロールもプラークの生成や酸の産生を抑えますが、完全ではありません。また、フッ化物配合歯磨剤だけを使っていてもムシ歯を完全に予防することはできないのです。ですから、それぞれの因子のリスクを下げることが重要です。食生活も正しいブラッシングも、ともに大切なムシ歯予防なのです。
2)歯周病予防
歯科の2大疾患は「ムシ歯」と歯周病です。この2つの疾患を毎日の歯磨きで予防することが、良好な口腔状態を維持して8020につながります。正しいブラッシングの習慣は、ムシ歯と歯周病の原因となるプラークの除去にたいへん有効です。特に歯周病では、予防だけでなく治療の意味からもブラッシングが重要なのです。
※8020:80歳になっても自分の歯で20本以上の歯を保って、豊かな食生活をはじめとする質の高い生活を送ろうという運動。残念ながら現状は8005。
初期う蝕は再石灰化によって健全歯にまで回復する可能性がある。 ─reversible cariesとは─
1 エナメル白斑はう蝕のはじまり
発酵性糖質の摂取によって歯垢細菌が産生する酸が長期間にわたり繰り返し作用した結果、エナメル質に形成される最初の病変は脱灰病変です。この脱灰病変は、ミネラルの分布が表層下が最も低く、表層ではむしろ高くなっていることから表層下脱灰病変と呼ばれています。
エナメル質の初期う蝕病変である表層下脱灰病変は、臨床的にはエナメル白斑として診断されます。白斑はエナメル質表面の色調の変化であり、原因となっている歯垢を除去し、歯垢が付着していた部分を十分に乾燥する事によって視診によって確認されます。したがって歯科医師だけでなく患者さん自身によっても自覚可能な症状です。また、エナメル白斑は個々の歯のカリエスリスクを意味します。
エナメル白斑 | う窩 | 歯の断面 |
2 表層下脱灰病変の特徴
表面の連続性がある
う窩形成は認められない状態です。表層のミネラルが比較的多く残っていて実質欠損の状態ではありません。う蝕病変の初期症状は、う窩の形成を認めない状態です。
口腔内細菌の侵入がない
酸は表層下脱灰病変の内部に漫透していますが、歯垢細菌は表層下脱灰病変の内部には侵入していない状態です。外部からの酸の浸透を防ぐこと(脱灰抑制)で、内部の不可逆的な崩壊を防ぐことができる状態です。
a/P濃度を高濃度に長期間維持できる
上Cの1)、2)の特徴とも関連して、唾液由来のCa/P濃度が表層下脱灰病変の内部で長期間、過飽和の状態に維持されます。これは再石灰化の促進には好都合の条件です。
表層下脱灰病変は、再石灰化によって健全歯にまで回復する可能性を有する─reversible caries─である
3 脱灰─再石灰化のバランスで決まるエナメル白斑の運命
脱灰によって失われるミネラルと再石灰化によって獲得されるミネラル量の均衡がとれていれば、ミネラル量に関して歯質には変化が認められません。肉眼的観察によってもエナメル質表面に白斑は形成されません。また、すでにある白斑は、う窩を形成することなく白斑状態のまま進行を停止します。脱灰よりも再石灰化が促進され、獲得されるミネラルの量が健全部と同程度にまで回復すれば白斑は消失します。白斑が進行停止するか可逆変化するかは脱灰と再石灰化のバランスによって決定されます。 脱灰と再石灰化のバランスをコントロールする最大のポイントは、セルフケアとプロフェショナルケアの両面から、歯垢の酸産生能をおさえること。と同時に、唾液と歯質表面が接する機会を確保し、唾液の再石灰化能をいかに促進するかにかかっています。そのためにフッ化物の応用はぜひとも必要です。
Demineralization 脱灰 |
Remineralization 再石灰化 |
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細菌が糖分を分解・発酵させることで酸(H+)が生成されます。この酸が歯質からカルシウムイオン(Ca2+)やりん酸イオン(PO43-)を溶出させ、脱灰が起こります。 | 唾液の緩衝作用で、酸性状態になっていた口腔内が中性に戻ります。すると、溶出していたカルシウムイオンおよびりん酸イオンがエナメル表層下に取り込まれ、脱灰していた部分が再び結晶化(再石灰化)します。唾液中にフッ素イオン(F-)があると、歯質の再石灰化促進、フルオロアパタイト化による耐酸性の向上か期待できます。 |