銀座ナンバー1「筆談ホステス」斉藤里恵さん独占取材(2)

希望と苦痛の選択

「筆談ホステス」こと斉藤里恵さん(25)が青森から上京し、銀座の門をたたいて早や2年。今や筆談だけで立派に会話も成り立ち成功している。しかし、最初に働いた名店「ル・ジャルダン」のママは「やはり耳の聞こえないコが水商売をやるのは難しいのではないかと思いました」と打ち明ける(『筆談ホステス』より抜粋)。

2年でナンバー1に上り詰めた里恵さん。耳が聞こえなくても努力で十分やっていけることを、身をもって示した。しかし、耳が聞こえるに越したことはない。物心つかない1歳10カ月で髄膜炎にかかったのを機に聴覚を失った。それ以来、音のない世界を歩んできた里恵さんだが、19歳の時に一大決心をして手術を受けたことがあった。

これは自動車の免許を取るためで、人工内耳を頭部に埋め込むものだという。手術は成功し、免許も無事取得した。しかし、今まで音を聞いたことがない里恵さんにとって、すべての音が一度に耳に入ってくる。希望が苦痛によって壊されていく。激しい頭痛やめまいに見舞われて、リハビリを断念。結局、音のない世界に戻ることを選んだ。その選択も「後悔はしていません」(以下セリフは全て筆談)というように、本人は明るい。

か細い印象とは裏腹に、腕は筋肉質。実はゴルフが好きなのだという。友人やお客さんたちとラウンドもする。ゴルフ歴はもう5年。スコアは110だ。こうしたアクティブな里恵さんからは悲壮感はまったく感じさせることはない。だから、多くの人に応援され支えられるのだろう。

銀座という場所

一昨年からの不況で、銀座でも閉店に追い込まれた店舗は少なくない。「お客様に元気がないのが寂しいです」というように景気の良い頃に比べれば、少しムードが下げ気味なところは否めない。それでも街全体が「華」を失わないのは、里恵さんをはじめ多くのホステスさんたちの頑張りと、不景気にも動じない品の良い客層にあると言えばよいだろう。ただ、里恵さんには以前から銀座の街で気になることがあった。

ホステスの中でも里恵さんの存在は相当に珍しい。いや皆無に等しい。だからこそ大きな話題となっているのだが、障害者のお客さんを見かけないのだという。日本の障害者は人口の約5%で、約600万人とも言われている。銀座にいても全然、不思議ではない。里恵さんは「銀座では障害者のお客様を見たことがありません」と残念そうな表情を浮かべた。

「障害者の人は引っ込み思案で、遠慮をしているのかも」 著書「筆談ホステス」を出すきっかけとなったのも、少しでも障害者の励みになってくれればという理由からだった。障害者の人も来やすい店。里恵さんの頭の中には、青森時代からずっとあった。その時の出会いが里恵さんの今の目標となっている。

「怪しい男」の正体は?

仕事の付き合いの二次会風。そんな数人のグループが、里恵さんの青森時代の店を訪れていた。その中の一人に混じっていた坊主頭でパリッとスーツを着こなしていた男性がいた。「きっとこの方は、昔、何か悪いことをしていたんだろう」と何やら、奇妙な感覚を感じたという。

里恵さんは、この男性と普通に筆談で接客をした。それでも気になって調べたところ、実はこの男性の正体、スワンベーカリーの海津歩社長だった。

同社を設立したのは、ヤマトホールディングスの会長だった故小倉昌男氏。作業所などで働く全国の障害者の月給が平均1万円以下で自立には程遠い現状に異議を唱え、採算を取ることによって自立することを目指したのがSベーカリーだ。その世界に一石を投じて、今や一目置かれる存在になっている。

里恵さんはさっそく、海津社長に連絡を取り、店舗を見学した。

「もともと障害者と健常者が一緒になって働いている会社やお店をもちたいと密かに思っていたら、ホントにあるんだなぁと」

筆談女社長

スワンベーカリーは、里恵さんにとってはまさにカルチャーショックだった。この時に受けた強烈な印象は今でも残っている。

「障害者を甘やかして働かせているのではなく、それぞれの出来る分野で、協力し合っているところを見た時は輝いてみえました!私も、健常者ももちろん障害者も自分の隠れている才能を出し切って楽しく働ける環境を作りたいと色々考えています」

里恵さんはこの世界に入る前にエステ業界で働いていた。事情があって辞めたものの、元々その道は好きだった。そこで思いついたのが「30歳位までに健常者も障害者も働けて、健常者も障害者も気軽に来店できる美容エステのお店を作る」ということだという。

銀座で働きはじめて一時は体調を崩して、しばらく店を休んだこともある。ずっと続けられるか不安になったこともある。しかし、今は違う。以前にも増して仕事を頑張ることができるようになったという。

本当に充実している日々。今では両親や兄弟にも、心から感謝できるようになったという。「皆、自分のことよりも私のことを気にかけて心配してくれたり、今思うと家族がいて守ってくれていたのですね」と里恵さん。また「30歳くらいまでには結婚して子供もほしい」と夢は尽きない。

いつか「筆談ホステス」は卒業する。そして次は絶対に「筆談女社長」になる。(終わり)






MSNより


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