入院医療における患者の同意なきジェネリック使用 岩田めい達(医療フォーラム主催)

ここ2~3年来のことだろうか。有名タレントを使ったジェネリックのCMが流されている。そのCMをみると、ジェネリックがいかにも優秀で信頼できる薬のように扱われており、かつ医療制度改革にとってかけがえのない薬であるかのように表現されている。
確かに、医療費抑制を進めるうえにおいてブランド品からジェネリックへの切り替えは重要なポイントの一つであり、また患者による医療、あるいは医療機関の選択ということが医療改革における一つのキーワードとなっているなかで、患者側の希望によって薬をチョイスできると訴求することは間違ってはいない。パターナリズムの医療の時代と違って、今は患者の選択肢のうえに医療があるのであるから、CM自体を云々するつもりはない。
ところが、一つ見方を変えるとまったく別の様相がみえてくるということがある。その一例を紹介してみたい。

先日、地方都市に住む友人から、「母親を入院させる病院を紹介してほしい」という相談を受けた。聞けば、「母親は難病で治る見込みはない。せめて最後は最高の医療をうけさせてやりたい」という。さっそく、私の知る限りにおいて、最高の治療技術、療養環境をもつ病院を紹介し、彼の母親は入院した。
それから数日後、母親の病状の経過報告をかねて彼が訪問してきたのだが、その時に問題になったのがジェネリックのことであった。当然のことながら、難病で末期をむかえている彼の母親は朝昼晩と点滴を投与されている。彼がその点滴の袋をみていると、見たことも聞いたこともない製薬メーカーの名前が書かれているという。不審に思った彼は、病棟服薬指導に来る薬剤師に「どこのメーカー薬なのか」と聞いた。そうすると、薬剤師からは「ジェネリックで、点滴だけではなく、抗生物質などもジェネリックを使用している。病院の方針として使っている」という答えが返ってきたという。彼の理解では、CMで表現されているように、ジェネリックというのは外来や調剤薬局で、患者の同意、あるいは希望を前提として処方されるものというものであった。それゆえ、彼は「なぜ、患者本人や家族に同意を求めることもなく、病院は勝手にジェネリックを処方しているのか」「母親は最高の医療を受けさせたいと思って、東京の病院まで連れてきたのに、なぜブランド品が処方されないのか」という疑問をもったのである。
そして、「患者側が求める最高の医療というもののなかには、使用する医療品の品質も含まれるはずだ。ましてや日本は創薬立国を目指しているわけで、治験を行うような一流病院でジェネリックを患者側の同意なく使うのはおかしいのではないか」という質問をぶつけてきたのである。
今、大学病院をはじめ一流といわれる病院は、そのほとんどすべてがDPC病院になっている。診療報酬を包括払いで受け取る形になっているわけで、治療の際に使用する医療品の代金も包括払いに含まれている。病院経営上、使用する医療品は仕入れコストの高いブランド品よりも、はるかに安いジェネリックのほうが好ましいということになる。また、行政サイドでもジェネリックの使用促進に向けた追い風を吹かせており、どんどん使用薬をジェネリックに切り換える傾向にある。国が医療費を抑制するうえでも、DPC病院の運営を考えても、経済的にはジェネリックの使用は望ましいことのように思える。
しかし、私の友人が疑問を呈したように、見方を変えて患者の立場からみて、それが望ましいことなのかどうかを考えてみると、必ずしもそうはいえない。患者は、病気の診断の時にレントゲンよりもCTやMRI、PETによる検査を望むのと同じように、あるいは手術の際に最新の術式を希望するのと同じように、使用する薬においてもよりよい薬、新薬の使用を望んでいる。多少価格は高くても、より良質な薬を使ってほしいと思っている。

この意味において、ジェネリックというものは、「国にとって都合のいい薬」「DPC病院にとって都合のいい薬」ではあっても、「患者にとって都合のいい薬」とは必ずしもいえない。
思い出すのが、かつての薬価差論議で、当時なぜ薬価差が問題視されたのがといえば、「病院がより薬価差の大きな薬」「病院にとって都合のいい薬」を求め続けたからであった。保険者や患者、あるいは薬業界も含め、関連機関との共存関係を考えることもなく、恣怠的に走ったから、あれほどの強烈なバッシングを受けた。現在のDPC病院におけるジェネリックの使用というものは、病院にとって価値差益を求めるもので、当時の薬価差と同じで、患者の納得や満足を求める気持ちとはなじまない一流の病院だと思って選択した病院で、病院側の経営上の都合でジェネリックを投与することは、患者に裏切られたという思いを抱かせるだけである。
また、ジェネリック使用促進の背景には、日本におけるジェネリックの使用率の低さというデータがあるようだが、アメリカのようなメディアとかメディケイドという救貧施策的な医療、あるいはヨーロッパのシビルミニマムとしての医療効率を優先するシステムと異なり、フリーアクセスを前提として国民皆保険制度のもとで国民が保険料を負担している日本の国民には、よりよい医療の提供を求める権利があるわけで、その前提のもとに医療制度に関する議論はなされてきた経緯がある。DPC病院におけるインフォームド・コンセントなきジェネリックの使用は、この約束事にも反しているといえよう。

そして、不思議でならないのは創薬メーカー、先発メーカーの沈黙である。ジェネリックメーカーが有名タレントを起用したテレビCMをこれだけ大々に流しているというのに、どうして対抗措置をとらないのだおうか。創薬メーカーとしての社会的責任。あるいは高度先進の技術に基づいた信用力、ブランド力を、消費者ニーズをふまえて堂々と展開すればいいのに、なぜしないのか。それこそ、日頃からの「価値に見合った価値」の気持ちでいるのなら大きな誤りで、日本医師会も含め医療提供側全体の納得もえられないまま、制度先行型でジェネリックの使用促進が行われている流れに異を唱えてしかるべきで、現状は怠慢としかいいようがない。
また、DPC病院の関係者におかれても、日本の医療は患者の「納得と安心」が第一義であるということを理解する必要がある。小さな問題のようだが、これは医療の質や安全性の問題に直結するものだけに、一度逆風が吹きはじめたら社会的な大問題となる可能性が高い。あえて問題提起しておくことにする。





MEDICAL QOL 2007.8


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