アメリカ型医療の恐ろしさ

先日「ジョンQ─最後の決断─」という映画を見た。この映画はアメリカではすでに昨年春ごろ公開されており大ヒットとなっていた。たまたまアメリカ映画ランキングを紹介するテレビ番組でその様子を聞いた私は、同時に伝えられたあらすじを聞いてぎょっとした。それは国民皆保険がないために、持てる物、持たざる物で、受けられる医療が厳然と格差付けされているアメリカ医療制度の矛盾を正面から問う内容だったからだ。「よくこんな固い映画がヒットするなあ。でも残念だけど日本での公開はないかもなあ」などと思ったものである。ところが、さすがはオスカー俳優デンゼル・ワシントン主演ということもあってか、昨秋から日本公開が始まった。
大まかなあらすじは、「最愛の子供が心臓病で突然倒れた。助かるためには心臓移植手術しかないが、主人公=ジョンQは医療保険では払えないと病院側に冷たくあしらわれ愕然とする。役所などに補助を申請してもダメ。気を取り直して金策に走るも、移植者リストに息子の名を載せるための前金七万五千ドルすらほど遠い。ついに追いつめられたジョンQはピストルを持って病院をジャックする。『要求は息子の命を救うこと、ただ一つだ』と」といった感じである。これだけ書けば何とも荒唐無稽な話にも見えるのだが、そこはアメリカ医療の実態や、登場人物の性格付けもしっかりなされた骨太の脚本と、デンゼルをはじめ脚本に惚れ込んで最低のギャラで出演をOKしたというそうそうたる俳優たちの好演で、きっちりリアリティが感じられる映画になっていた(もちろん医療の専門家が見れば色々つっこみどころもあるだろうが……)。
なかでも印象に残ったは、ジョンQが「毎年息子は健康診断もきっちりやっていた。先天的な心臓の欠陥がなぜ見つからなかったんだ」と愚痴をこぼしたのに対し、人質の若い医師が「HMO(ジョンQが入っていた保険制度。もちろん民間)は支払を減らすために、医療費をかけなかった医師にボーナスを出すんだ。だからその医者は高い検査が必要だとわかっていてもしなかったのだろう」と返した場面だ。今日本の医療制度改革で叫ばれる「保険者機能の強化」「医療機関との直接契約」などは、基本的にはこうしたアメリカの現状を日本に持ち込むものだ。すでに必要な医療行為を行っているのに、日々保険者からの減点・返戻の憂き目にあっている会員は多いと思われるが、いわばそれがさらに強化されるわけである。結果は過小診療による「医療の質の低下」だ。患者にとっても背筋の凍るような話である。
固いテーマにも関わらず観客動員も上々のようである。ハリーポッターなどの大作に押されて一月以降は上映館数も減っていることが予想されるが、今すすめられている「医療改革」がどんな状況をもたらすのかを知ってもらう上でも、ぜひもっと多くの人に見てほしい映画だ。





(伊藤裕昭・協会事務局)


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